命を見つめて「本当の幸せ、今生きていること」

2009.02.09

●「本当の幸せ、今生きていること」  
故・猿渡さんの作文「命を見つめて」

みなさん、みなさんは本当の幸せって何だと思いますか。実は、幸せが私たちの一番身近にあることを病気になったおかげで知ることができました。
それは、地位でも、名誉でも、お金でもなく「今、生きている」ということなんです。

私は小学六年生の時に骨肉腫という骨のガンが発見され、約一年半に及ぶ闘病生活を送りました。この時医者に、病気に負ければ命がないと言われ、右足も太ももから切断しなければならないと厳しい宣告を受けました。

初めは、とてもショックでしたが、必ず勝ってみせると決意し、希望だけを胸に、真っ向から病気と闘ってきました。その結果、病気に打ち勝ち、右足も手術はしましたが残すことができたのです。

しかし、この闘病生活の間に一緒に病気と闘ってきた十五人の大切な仲間が次から次に亡くなっていきました。小さな赤ちゃんから、おじちゃんおばちゃんまで年齢も病気もさまざまです。厳しい治療とあらゆる検査の連続で心も体もボロボロになりながら、私たちは生き続けるために必死に闘ってきました。

しかし、あまりにも現実は厳しく、みんな一瞬にして亡くなっていかれ、生き続けることがこれほど困難で、これほど偉大なものかということを思い知らされました。みんないつの日か、元気になっている自分を思い描きながら、どんなに苦しくても目標に向かって明るく元気にがんばっていました。

それなのに生き続けることができなくて、どれほど悔しかったことでしょう。私がはっきり感じたのは、病気と闘っている人たちが誰よりも一番輝いていたということです。そして健康な体で学校に通ったり、家族や友達とあたり前のように毎日を過ごせるということが、どれほど幸せなことかということです。

たとえ、どんなに困難な壁にぶつかって悩んだり、苦しんだりしたとしても命さえあれば必ず前に進んで行けるんです。生きたくても生きられなかったたくさんの仲間が命をかけて教えてくれた大切なメッセージを、世界中の人々に伝えていくことが私の使命だと思っています。

今の世の中、人と人が殺し合う戦争や、平気で人の命を奪う事件、そしていじめを苦にした自殺など、悲しいニュースを見る度に怒りの気持ちでいっぱいになります。一体どれだけの人がそれらのニュースに対して真剣に向き合っているのでしょうか。

私の大好きな詩人の言葉の中に「今の社会のほとんどの問題で悪に対して『自分には関係ない』と言う人が多くなっている。自分の身にふりかからない限り見て見ぬふりをする。それが実は、悪を応援することになる。私には関係ないというのは楽かもしれないが、一番人間をダメにさせていく。自分の人間らしさが削られどんどん消えていってしまう。それを自覚しないと悪を平気で許す無気力な人間になってしまう」と書いてありました。

本当にその通りだと思います。どんなに小さな悪に対しても、決して許してはいけないのです。そこから悪がエスカレートしていくのです。今の現実がそれです。命を軽く考えている人たちに、病気と闘っている人たちの姿を見てもらいたいです。そしてどれだけ命が尊いかということを知ってもらいたいです。

みなさん、私たち人間はいつどうなるかなんて誰にも分からないんです。だからこそ、一日一日がとても大切なんです。病気になったおかげで生きていく上で一番大切なことを知ることができました。今では心から病気に感謝しています。私は自分の使命を果たすため、亡くなったみんなの分まで精いっぱい生きていきます。みなさんも、今生きていることに感謝して悔いのない人生を送ってください。
                        以 上
西日本新聞(2005.01.15付)朝刊の記事の全文。

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命の作文の話が昨日の朝日新聞で紹介されていました。04年7月2日、福岡県大牟田市で開催された小中学生らの弁論大会で、中学2年生の猿渡 瞳さんが語りかけた言葉です。

その2ヶ月半後の9月16日、彼女は亡くなったそうです。小学6年生で骨肉腫を患い、全身転移して亡くなる前の彼女の力強い言葉です。

本当の幸せとは何なのか?
【今 生きている】ということが本当の幸せなんだと、生き続けることが困難で偉大なことを病気で思い知らされたという彼女。

自分の使命を果たすために、亡くなったみんなの分まで精一杯いきていますという彼女。

…私たちは生きることにどれだけ真剣だろうか?
今ここに生きていることにどれだけ感謝できているだろうか?
悲しいニュースが多い中で、そのニュースからさえも目をそむけ、自分の置かれている社会環境でさえも目をそむけて、誰かが何かをしてくれることばかりを望んではいないだろうか?

今を生きよう! 今できることを懸命に考えよう!
そんなメッセージと、私の伝えるべき使命を改めて教えていただきました。報恩感謝。